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胃カメラ

私の勤めている会社では毎年、春に健康診断がある。ま、企業としてはこれが義務づけられているらしいから、当然かもしれない。そして、30歳以上の者は、胃の検査がある。バリウムを飲んで、胃の様子を見るのだ。
さて、この検査を今年から受けることになった。そして、見事、「要再検査」となった。ポリープがあるらしい。再検査は胃カメラを飲まなければならない。
再検査が必要だと言われたが、これは自分で医者を捜していかなければならない。特に期限もない。私には、子供の頃から診てくれている医師がいるが、この春、私は転勤により引っ越してしまったので、新しい病院を探す必要がある。これは面倒だ。面倒だ、面倒だと放っておくうちに、秋になって、人事課から、早く再検査を受けなさいと命令が来た。


会社の近くに内科医院があるというので、仕事中に抜け出して、そこにいってみる。案の定、医者に診てもらってももらわなくても劇的な状況の変化は見込めない人たちがたくさん、待合室にいる。しかし、胃の検査だといえば、先に見てもらえるかもしれないと、まったく、実現しそうにない期待を持って、受付のお姉さんに事情を告げると、予想外の答えが返ってきた。うちでは胃カメラはやっていません、と。
途方に暮れて、会社に戻る。同僚に訊くと、ある程度の規模がある病院、医院でないと、胃カメラはやっていないし、そういうちゃんとしたところは、紹介がないと駄目かもしれない、とのこと。幸いなことに私の会社には保健室がある。そこで紹介してもらうことにした。そこは、会社からも近い。大手損害保険会社のビルに入っている診療所である。


そこにいく。ビルはすぐに分かったが、診療所はどこだろう。損害保険会社の受付に行く。ビルは大きいが、本社ではなく、事務センターのようなところだ。大体、そういうところの受付は、元美人といった感じの人が多い。診療所はとなりの棟だという。
一旦、外に出ると、確かに看板が出ている。診療所に入ると、ここはそれほど混んでいない。一般の病院、医院と違い、ここはこの大手損害保険会社の社員向けの診療所だからなのかもしれない。社員を中心に、外来も診る、といったところか。
一般の医院に比べて、さほど待たされずに、診察室に通される。女医である。あらかじめ、カルテを渡してあるので、それを見ながら、状況を説明してくれる。大したことはないが、念のため、胃カメラで見てもらいなさい、ということらしいですね、という。言外に、胃カメラは必要ないよ、といっているようだ。次に、となりの部屋に通され、今度は看護婦から、胃カメラを行う際の注意事項について説明がある。腕も足もやけに細い看護婦で、冗談をいったら、笑った。歯並びが悪かった。胃カメラを飲む日付と、その前日と当日の注意を説明される。そして、血液の検査をした。何でも、胃カメラに梅毒などの菌がついたら大変だから、ということらしい。そんなはずはないが、素直に従う。


さて、前日。午後9時以降は食事をしてはいけないということなので、早めに帰宅して食事をする。飲み物は12時まで。酒は駄目、とはいわれなかったが、やめておく。
そして、当日。当然、朝食は抜きである。といっても、私は滅多に朝食は摂らない。しかし、こんな時に限って空腹感を覚える。午前11時半が検査の時間である。不思議なのは、午前8時半から検査の人も、午前11時半からの人も、午後9時以降の食事が禁止である。少し早めに診療所に行くと、早速、内視鏡の部屋の手前の部屋に通される。胃カメラといったり、内視鏡といったりするが、同じことである。目のギョロッとした優しそうな看護婦が来て、上着を脱げといわれたが、肩のところに注射を打つというので、ワイシャツも脱ぐ。まず、大きめの猪口くらいの量の薬を飲まされる。胃の薬か。そして、注射を打たれる。これは、胃の働きを抑えるためだろう。そして、ベッドに寝かされ、奇妙な液体を口に流し込まれる。これは飲み込まず、のどのところにとどめておく。麻酔である。吐き気を押さえるためだ。正露丸をずっと舌の上に載せてみると同じような感覚が味わえる。これを七分間。徐々にしびれてくる。
それが終わるといよいよ、胃カメラの部屋に入る。やはりベッドに寝る。脇に、胃カメラとおぼしきチューブと、その付属機器がオーディオラックのようなものに収められて、置かれている。しばらく寝ていると、医師がやってきた。ひげが吉村作治のようでいかがわしいが、胸に「院長」と書かれた名札を付けていたから、この人が院長先生なのだろう。
私は左側を下に横向きに寝かせられた。院長はゴムの手袋をはめて、早速、チューブを口の中に押し込む。口がかなり痺れていたから、麻酔が効いているかを思いきや、猛烈な吐き気が、おそってきた。よく効いていないようだ。大体、私のような大柄な人間も、小柄な人間も同じ量の麻酔なのではないか。などと、考えている暇は、実は、なかった。猛烈に苦しい。涙がにじむ。看護婦が私の背中や肩をさすって、力を抜いて楽にして深呼吸しろ、という。のどの奥にチューブの先が当たっているのだろう。かなり痛い。そしてどうやら胃に達したらしい。ベッドの脇にモニターがあって、その様子が見られる。胃に入ってしまえば、吐き気も収まるので、胃の様子を見ることができる、と聞いていたが、嘘であった。吐き気は収まらない。私は涙をこらえて、早く終わらないか、と祈るような気持ちだった。途中で、先生、ビデオの名前が違ってますよ、という看護婦の声が聞こえたが、不安になる暇もなかった。
胃カメラはどういう構造になっているのか、よく分からないが、チュープの中は空洞らしい。薄目を開けて見ると、今度はチューブに別のワイヤーを差し込んでいる。あらかじめ、胃壁の細胞を採取すると聞いていたので、どうやら、その作業らしかった。腹の奥に軽い衝撃があった。おそらく、切り取ったのだろう。その作業が2回、行われ、そして、チューブが抜き取られた。
頬の脇に、三日月型の容器があてがわれているので、作業中の涎は、そこに流れるようになっているが、私の場合はほとんど出なかったようだ。
やっと終わったという安堵感から、ぼうっとしていると、先生が、胃の内部の写真を見せて説明してくれる。カラービデオプリンタがあったから、そこから出てきたものだろう。ポリープがいくつもあるが、まん丸い形なので、良性であろう、詳しくは細胞を検査してから、という。でも、まず問題ないだろう、と付け加えた。結果は2週間後に分かるので、また来なさいといわれた。
待合室で待っていると、かなり待たされて、受付に呼ばれた。費用がかなりかかるとは覚悟していたが、6000円もかかるとは思っていなかった。私の場合、健康保険で2割負担だから、実際には3万円である。こんな、失敗の可能性がほとんどない検査で、しかも実質15分程度の作業で、3万円である。こんなの医師じゃなくて、専門の作業員でいいんじゃないか、と思った。

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[2000-11-20]

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